ドイツの森の散歩道 2020〜

ドイツ生活はや10年以上。これまでのブログはexcite blog「ドイツの森の散歩道」

在ドイツ苦節12年の表彰状に涙する

この4年間、騒音に端を発するご近所問題で、かなりエグい修羅場を経験してきました。

メールでの非難合戦、住民会議での大声罵り合い、警察沙汰、暴力事件(夫に対する)、庭にヘドロを撒かれるなどいやがらせ、市の裁判所での調停、弁護士を立てての話し合い…。

 

解決していないので詳細は書けませんが、うちがある世帯の騒音に苦情を申し立てたところ、相手方と、もう1世帯首を突っ込んできたドイツの老カップル(会社経営後引退した小金持ち。70代奥さんと83歳のおじいちゃん)とで共同戦線を張られ、うちが2世帯に対峙するという構図。

 

特に老カップル奥さん(以降エセレブばあちゃんと書かせてもらいます)が曲者で。

「私が一番正しいの、私がこの世で一番知的でエレガントなマダムなの、皆さんアテクシの言うことお聞きなさい」というのが基本姿勢。

論争大好き、筋が通ってなくとも荒唐無稽な詭弁を瞬時に機関銃の如く打ち出してくる。あまりの屁理屈っぷりに「そんなバカな理屈、お気は確かですか?あなた自分が恥ずかしくないんですか?」と言いたくなりますが、品性だの人格だのお構いなし。

とにかく喋りまくって相手を黙らせた方が勝ち、というのがドイツなのです。

 

こういう時、日本人妻はとにかく不利。

 ただでさえサバイバルレベルのドイツ語なのに、興奮して早口&大声で捲し立てている相手に反論なんてできるものではありません。

 

意味が分からなくて夫に英語で「なんて言ってるの?」と聞けば、すかさずドイツエセレブばあちゃんが「んまあ、英語英語って、まーだドイツ語わかんないの、この子は!?」とバカにしたように口を挟んできたり、勇気を出して発言すれば「何言ってんのか分からないわぁ、オホホホホ!」と威嚇するように嘲笑する(これらは、さすがに立ち会っていた弁護士と市の調停員が「その発言はフェアではない」と注意していました)。

平時はアジア人にもオープンに接するインターナショナルで進歩的な私達よ、って態度を装っていても、一度対立すれば容赦ない掌返し、見下した態度や優越感、本性丸出しで牙を剥いてきます。

 

 

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この問題が勃発してはや4年。

当初は私はまだドイツで会社勤めもしておらず、初めて他人(一応知り合いである人)に激昂するドイツ人、とんでもない屁理屈を堂々と押し通す人を目の当たりにして頭が真っ白になりました。ええ、アメリカドラマの場面のようにやりあうんですよ。

もし私がドイツに来たばかりの頃だったらビビってオXッコちびってただろうな… と思ったほど。

そんな私も数年前に企業勤めを開始、以前に比べずいぶん社会経験値が上がりました。

 

数週間前、2度目のロックダウン前に開かれた何度目かの話し合い。

なぜかこれまでと違い、老カップルに対して怯えるよりも呆れる気持ちが大きく、いつもの詭弁が始まった時、もう黙ってないわよとばかりに頑として反対意見を主張しました。

 

その翌日。

私達の弁護士さんが夫にメールをくれました。

 

「あなた(夫)は、私と同じようにあなたの妻を大変誇りに思っていることでしょう。

昨日の話し合いで、彼女は外国語でもあるにかかわらず、みんなが指摘しなかった点を指摘して整理し、彼女の反対意見と理由を論理的に明らかに説明しました。素晴らしい勇気と発言でした、とお伝えください」と。

 

夫が見せてくれたそのメールを読み、涙があふれました。

ああ、認めてくれた人がいる…。

 

 

その弁護士さんも、これまで大人しく黙っていた私が突如主張し始めたのが、相当驚きだったのでしょう(笑)

 

 

正直言って、私にとってはこうやって自分を嘲笑されるとわかっている話し合いの場に出席すること自体が今だにとてつもないストレス。

代理人を立てて欠席したことがありましたが、逃げ続ければさらにバカにされるのは明らか。

だからと言って、出席してボコボコにされながら座っているのも「苦痛」なんて言葉では表現し尽くせないものがあります。

 

この老カップル、ご近所問題が拗れる以前は普通以上にフレンドリーだったんですよ(だからかえって危険な匂いを感じ、付かず離れずを心がけていました)。

私もドイツ語ができないながらもコミュニケーションはとっておこうと、会うたび「ハロー」プラス一言、二言、必ず雑談を加えるようにしていたのです。

 

それなのに!

 

2年ほど前の調停員や弁護士のいる話し合いの時。

以前、問題がこじれ始めた頃に、なんとか穏便に解決を、と、そのエセレブばあちゃんに話しかけた時のことを「この子はドイツ語が話せなくて、私に「ハロー」しか言ったことがなかったくせに、問題が起きて急に私に取り入ろうと話しかけてきた」と皆さんの面前で言ってのけました。

 

怒りと屈辱でぶっ倒れそうになりましたよ。

「ハローしか言ったことがない」だとぉ?

 

いやいやいやいや、ドイツ語ができなくても、そりゃーがんばってきましたよ。

子育てや学校の話も、出かける予定の美術館の話も、ホリデーの話も、しましたよね?

それをよくもまあ、いけしゃあしゃあと…

  

 衝撃すぎてしばし言葉を失いましたが、黙っていたら彼女の言うことが「事実認定」されてしまうという恐ろしい事態。

私は彼女に取り入ろうとした卑屈な日本人、てわけ?冗談じゃないよ。

 

「『gar nicht』(全く、全然)とは事実ではありません、私はあなたとハロー以外にも世間話をしてきました、覚えていないのですか???」

必死で言いながら情けなくて涙がこぼれた、あの日…。

 

先日、弁護士さんがメールをくれた話し合いの直後、夫も「がんばったねー。最初の頃は一人で全ての議論に応戦しなきゃいけなかったけど、ミドリが話している間に次の発言を考えたり体制を立て直せるから、ずっと楽になった」と言ってはくれました。

が、いわばビジネスの関係である弁護士さんがわざわざメールで伝えてくれたことが本当に嬉しくて、ありがたくて、優しい言葉が心に滲みました。

 

これまで様々な不快な事件、「耐え難きを耐え、忍び難きを忍いできた」ドイツ生活、苦節12年の表彰状をもらった気持ちです。

 

このエセレブ老カップル、私たちだけではなく、別のご近所とも裁判沙汰を起こしている闘争心満々な方々。しかし70代と80代で、よくまあ他人のことに首を突っ込んで次世代(私達)を苛める元気があるものだ…

 

 

この問題が解決したわけではありません。これまで屈辱的な言葉を受けて死にたいと思ったこともありました。ただでさえしんどい海外暮らしなのに「ご近所」という避けられない相手に真摯にコミュニケーションを取ってきた努力も踏み付けにされ、ドイツで我慢して暮らしていく意味はもう無い、とも思いました。けれども、様々な辛い状況を理解して心を寄せてくれる人がいた。またもう少し、歩いていけそうです。