アフロヘアーでメディアにも強い印象を残した、もと朝日新聞の記者、稲垣えみ子さんが53歳にしてフランスはリヨンで2週間の一人暮らしにチャレンジした滞在記です。
Kindle unlimitedで見つけて、なんとなーく読み始めたのですが、いやあ、良かった!
自分が海外生活を始めた頃の様々な勇気や喜怒哀楽を思い出し、一気に読み終わりました。
なかでも深く感じるものがあった言葉。
。。。海外旅行ってものが華やかな割に案外キツいのは、もちろん食べ物が合わないとか色々あるワケだが、本質的には「自分」ってものがどこかへ追いやられてしまうからじゃないかと思うのです。。。日本でどんな仕事をしていようが、どんな友達がいようが。。。言葉が通じない世界へ入ってしまえば一律に赤ん坊以下(透明人間、あるいは足でまとい)の存在。
そうです、海外生活20年になった今でも、まさにこれは私に時折襲ってくる感情なのです。
さて、海外生活の経験もなく、英語はAirBとのメール連絡に四苦八苦、フランス語も大してできないという彼女のリヨン滞在のテーマは「暮らし」。
普段の自分のままひょいと海外へ降り立ってみる。「日本でしないことはやらない。あくまで日本での生活(自炊、エコ生活)をリヨンでも実践してみる」「料理を作って、洗濯して、掃除して、近所で買い物をしたり顔見知りに挨拶をしたりする地味な生活」を海外でも一生懸命やれば何かが見えて来るかもしれないし、現地の人とコミュニケーションを取ることだって可能なんじゃないか?
そう考えて、観光プランはリサーチせず、自炊の調味料、本、わずかな着替えを持って旅立ちます。
ハプニングは到着から。雪のために遅延して到着した夜の空港でタクシーがつかまらない。到着を待っていてくれるはずのAirBの家主と連絡がつかない。
なんとか待ち合わせができてホッとしたものの、鍵の開閉、シャワー、wifi接続に四苦八苦。
翌朝、自炊の食材購入をすべくドキドキしながらマルシェに乗り込むものの、どうみてもアフロの東洋人は地元の風景から浮いている。自意識過剰になり手も足も出ないままマルシェの終点まで歩いてしまう。
空いているお店で思いきって野菜を買い、少し気を良くしてUターン、今度はパン屋さんへ。「どこから来たの」「ジャポン」という会話に愛を感じる。
自炊ランチを食べ終わりお散歩へ。
丘の上の絶景に「突然景色がパーッと開けて、眼下にはリヨンの街が一望の元に広がっていたのである。。。しかし景色ってすごいね。パーッと広がった景色を見たら。。。これから当地で楽しいことが何も起きなかったとしても、この景色を見にくれば『何はともあれリヨンに来てよかったのだ…』と自分に言い聞かせることができる。
翌日のテーマはカフェでコーヒーを飲み、仕事をすること。
けれど、入店初っ端からウエイターにはムッとされ、オーダーの際も支払いの時も笑顔をチラリとも見せてくれない。
その翌日もマルシェとカフェを梯子するも、丸二日間、ただの一度も誰からも笑いかけてもらえない。
。。。私は一体こんな遠い国まで何をしにきたのだろう。。?誰からも必要とされていないどころか、ただただ浮いた存在でしかない。
ネガティブな4日目。愛想のいいギャルソンのいるカフェを見つけ、やっと気持ちの落ち着きを得る。さらに翌日。同じカフェでギャルソンに詳しく注文を聞かれてなんとかコミュニケーションを取り、さらに隣席のおばあさんと笑顔とちょっとした会話を交わし、一気に浮かれて夜は一人祝杯をあげる。
日を重ねるごとに、階下の老教授との会話に人の本質的な寂しさを感じ、カフェに座ればオーダーせずともカフェクレームが出てきて常連ぽいと喜び、ワイン屋さんで好きな料理に合うワインのおすすめを訊ねて購入し、最後にはマルシェでアフロヘアについて話しかけてきたおばさんに「ビバ・アフリカ!」とにっこりされ。。。
。。。こういった浮き沈みを噛みしめながら、14日を過ごします。
地元のスーパーで買い物をし、マーケットで知らない食材を手に取り、新しい料理にチャレンジし、カフェでコーヒーを注文する、ちょっとしたやりとりや相手の反応に一喜一憂…
私にも、その一つ一つがとてつもないチャレンジで、その小さな達成感と挫折感の積み重ねでここまできました。
その時々の様々な感情が蘇り、ご紹介したい文章ばかりで、本をほぼ書き写してしまいそうです(笑)。興味を持たれた方はぜひ読んでみてください。